2024 NEW TACKLE INFORMATION VOL.2 『Path Prover PRV411SL-4 “Balsa Connect”』TIEMCO VS 三多摩擬似餌連合

今のバルサシンキングミノーの使用に特化した、シャープでもよく曲がるニューコンセプトロッド

アイキャッチ

【開発のきっかけ】

発売延期から一年。新年早々の1月末にティムコ社から『パスプルーバー』シリーズが満を持して発売される。本製品の最大の特徴は、ラインナップされる5機種のロッドが、「仕掛けて獲る」というコンセプトを軸にした一つのシリーズではあるものの、それぞれが使用する場面に特化した独立仕様である点。開発者の田崎翔氏によれば「それぞれのレングスで使用するルアーをある程度明確化し、必要な特性を落とし込んだスペシャリティロッド群」とのこと。多様化する昨今のトラウトルアー事情にアジャストしたシリーズと言えるだろう。

中でも、とりわけ目を引くのがシリーズ中の最低レングスで唯一の4ピース仕様の『PRV411SL-4』。このロッドには「バルサコネクト」というサブネームがついているが、文字通りバルサ性のハンドメイドミノーを使用することを想定して開発されたロッドである。そもそも同社のルアーラインナップにはバルサミノーはない。にもかかわらず、このロッドを開発するきっかけについて、田崎氏はいう。

「今のハンドメイドの主流である5㎝で3~5gのシンキングミノーを快適に使えるロッドって、意外にないものだなということに気がついたんです。2~3gのルアーを投げるのに適したスローテーパーなロッドはあるんですけど、それだとトゥイッチを掛けた時などの操作感が悪い。逆にヘビーウエイトのシンキングミノーに対応した今主流のロッドだと、キャストが難しくって思うように飛ばない。要は『しなやかに曲がって反発力の早いロッド』があれば、今主流のバルサミノーに最適なロッドになるんじゃないかと思った訳です」

確かに、従来バルサミノーに向いているとされるレギュラーアクションのUL~Lクラスのロッドを使用して、ある程度ウエイトのあるシンキングタイプのバルサミノーを使用すると、復元の早いルアーにロッドブランクの復元が追いついていけず、操作感が損なわれる上、必要以上に曲がりすぎてキャストも安定しない。逆に操作性重視のためにL~MLクラスのファストアクションのロッドを使うと、飛距離がイマイチなのはもちろん、今度はバルサミノーのレスポンスをロッドが拾い切れず、左右のコントロールが難しかったりする。

「ルアーでは、桂川に代表される『中規模河川には6㎝台のミノーが有効』という提案をして『ラクス60S』などをリリースしたように、ロッドに関しても適材適所っていうか、もっと現場のシチュエーションに即したものが必要だと感じたんですよね。それがこのシリーズの出発点でした」

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しかしこの企画は、ハンドメイドミノーの使い手ではあっても、作り手ではない田崎氏にとって、一人ではそう簡単には実現できないものだった。そこで白羽の矢が立ったのが、彼とも親交のある麗’sルアークラフトの中本哲央氏、ステイゴールドの金正弘氏、鱒mokuの辻剛洋氏の3名、“三多摩疑似餌連合”の愛称で呼ばれ、本誌でもお馴染みの人気ハンドメイドビルダーたちである。

「この御三方は日頃自分の作ったミノーでスイムテストや釣りをしている訳で、どんなロッドがバルサミノーに適しているか、よく知っているのではないかと思いました。そこで、彼らの要望をもとに試作したプロトロッドをテストしてもらい、彼らからの意見を僕が製品にフィードバックさせていくという形で、このロッドの開発が始まったんです」

【ハリがあっても曲がり込むハイテーパーブランク設計】

「僕自身が普段使っているロッドで満足している訳ではないですので、特にキャスティングしやすいロッドにしたかったですね」(麗’Sルアークラフト中本)

「竿先で細かなアクションをつけることが多いので、とにかく操作性に期待しました」(ステイゴールド金)

「源流釣行が多いのでとりあえずレングスを重視しました。4ピースというのは僕の強い希望です」(鱒moku 辻)

上記はその一例だが、開発の田崎氏も含めて、それぞれ新ロッドに対する希望を出し、理想とするコンセプトを決めることからこの企画はスタートした。ただ抽象的な表現だけでは具体性に欠けるため、中本、金、辻の3者が使用しているロッドも含めて、市販の代表的なロッドを新旧10本程度試投してみて、理想とするものに一番近い調子のロッドを探すことも行ったそうだ。

かくして、導き出されたニューロッドの基本コンセプトは、下記の3点。

①.現在の主流である50㎜、3~5gのバルサシンキングミノーを快適にキャスティング可能なこと。

②.トゥイッチなどのロッドワーク時に、復元の速いバルサミノーに対して、ロッドブランクの復元がなるべく遅れないこと。

③.10年間愛用してもらえるようなデザイン。洗練されたルアーに負けず、渓魚と並べたくなるようなもの。

3人で一緒にテスト釣行する機会も。
3人で一緒にテスト釣行する機会も。

こうして言葉にすると簡単に思えてしまうが、実際には①と②を同時に実現するのは、かなり難しいと言える。というのも、低比重のバルサミノーをキャストしやすいロッドというのは、概してよく曲がるパラボリックアクションのロッドであり、ハリがないためロッドワーク時の復元は遅いのが特徴だからだ。逆に、復元の早いものはハリが強く、あまり曲がらないのが常で、低比重のルアーをキャストするのは難しい。要するに、相反する要素を同時に併せ持つ必要があるわけだ。

「この相反する要素を実現するために考えたのが、ハイテーパーなブランク設定です。つまりティップが細くてバットが太く、テーパーが急なんです。これはよくグラスロッドなんかで行われる手法なんですけど、バットからティップにかけてのテーパーがきついと、ロッドのハリが出るんですね。これを30tカーボンを使っで肉薄にプライすることで、喰い込みのいいティップとシャープなベリーセクション、ハードなバットを生み出しました。なので全体的にハリがありながらも、負荷がかると曲がりこむ、という相反する特性をある程度実現することができました」

田崎氏が言うように、ロッドブランクは力を加えると楕円状に膨らもうとする傾向にある。いわゆる「ロッドの横ブレ」と呼ばれるものである。この楕円状に膨らもうとする力を、バットからベリー、ティップにかけて急なテーパー形状にすることで抑え込むという手法である。

またメインブランクに、あえてレギュラーカーボンと呼ばれる30tカーボンを使用したのも、それを助長している。それ以上の高弾性カーボンを使用すればハリが強くなり過ぎ、逆にそれ以下のものだと曲がり過ぎてしまう。レギュラーカーボンのブランクに、先のような特性を持たせることで、ハリがあってもよく曲がるという相反する特徴を実現したわけだ。

【素振りでは硬めでもキャスト&ファイトではよく曲がる!】

かくして、理論上では難関をクリアーしたものの、実際に出来上がったプロトモデルを手にしてみると、ビルダーたちからの評価は辛口だった。

「思ったよりも軟らか目の調子になったなと感じました」(中本)

「竿先でミノーにアクションをつけるにはスローすぎました。4gを超えるとかなりきびしい感じでしたね」(金)

「曲がり過ぎてコンパクトなモーションでのキャストがしずらかったですね」(辻)

要約すると、三者ともに「もう少しハリのあるロッド」を求めていた。

「自分が想像していたものよりももっと硬めでハリのあるものを皆さんが求めているというのは意外でしたね。僕自身が低比重のバルサミノーを意識しすぎたのかもしれません」(田崎)

そこでフィードバックされたものを工場へ伝え、2本目のプロトモデルが出来上がったのだが、ここでもフィールドテストの結果、3人が「まだ曲がりすぎる」と口を揃えた。結局、ロッドの調子に関して3名からOKサインが出たのは、実に4本目のプロトモデルだった。

「彼らからの意見を受けて、徐々にアクションを硬めにしていったのですが、単純にロッドにハリを持たせると曲がらなくなってしまうので、調整にはかなり苦労しましたね。一時は企画自体が頓挫してしまうのではないかと思ったほどです。でも、試行錯誤の末にカーボンを肉薄にして前述のハイテーパー設計を顕著にしていく方向性でアクション出しをしました。要するに、太くてパワーのあるバットセクションで3~5gというルアーのウエイトを受け止めるようなイメージですね。結果的に、ハリの強いブランクでブレも少ないわりに、全体がしなやかに曲がりこむアクションを実現することができました」(田崎)

この4本目のプロトロッドには、面白いエピソードがある。彼らにロッドを渡して素振りをした際、3人とも「今回はやや硬いのでは……」といったのだ。しかし、実際にルアーを装着してキャストをしてみると「思ったよりもよく曲がる」と誰もが口を揃えた。

 

「最初は投げやすいけど操作しずらいなという感じだったけど、ここへきてしっくりきた感じでしたね。魚がヒットした時の曲がりも良かったです」(中本)

「僕はもう少し竿先でアクションが付けやすい方がと最初は思ったんですが、使っているうちに馴染むような感じでしたね。トゥイッチを掛けた際のルアーの復元とロッドの戻りもちょうど良い感じでした」(金)

「僕は源流釣行が多いので、お二人よりはやや軽めのミノーを使うことが多いんですけど、とにかくよく飛ぶように感じました。コンパクトなモーションでも、負荷が掛かるとしっかり曲がってくれるんです」(辻)

かくして、今のバルサシンキングミノーを使用するのにベストなロッドのベースが、通常の製品開発よりも多くの時間と試行錯誤の末に完成した。

ちなみに、アクション出しの仕上げとして、田崎氏は『PRV411SL-4』のプロトモデルとインジェクションミノー向けに開発した『PRV47SL-2』(プロトモデル)を同時に現場に持ち込み、実際にバルサミノーをキャストしてみたそうだ。もちろんリール(2000番クラス)、ライン(PE0.6号)は同じ。前者では安定した飛距離と好キャストのフィーリングを得られたのに対して、後者だと着水点の左右のコントロールがしにくい上に、数キャストに1度の割合で後半にルアーが失速して手前に不自然に落ちてしまうことがあった。逆に、インジェクションミノーだと全く逆の結果となった。

「このテストで、我々が目指した方向性が間違っていなかったことが実証された感じでしたね。~3.5gまではティップに載せるイメージで、3.5~4.2gまではベリーに、4.2~5.0gはバットに載せるイメージでキャストすると、このロッドの性能を最大限に活かせると思います」(田崎)

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【見た目のクールさにこだわったデザイン】

その後は細かな微調整と最終的な仕上げの段階へと入った。

まずは、ガイドシステムの見直し。低比重なバルサミノーのキャスト時にネックになりがちなのが糸抜けの悪さ。これを解消するために、トップガイド付近(計7個のガイドのうちトップを含めて4つ目まで)にはやや大き目のガイドを採用した。

さらに、当初は軽量感を優先して、チタンフレーム&トルザイトリングの径4.5を装着していたのだが、テストの最中で、チタンフレームのSiCリングの径5に変更した。振り抜け感も変わらず、若干ではあるもののガイドに重量がある分、小さな入力でもキャスト時にブランクが曲げやすくなるように感じられたためだ。その副産物として、コスト面でも小売価格を抑えることができたという。

「最後まで悩んでいたのが、ロッドのコスメとかデザインの部分ですね。せっかくなので、何か特別感を出したかった。これはこの機種に限ったことではなく、シリーズ全般に言えることですが、ロゴやスレッドワーク、グリップなどのデザインを既存モデルから一新しました。個々にカスタムのできるインディーズメーカーでないからこそ、幅広い層のアングラーの方々に手に取ってもらいたい。そのためには、魚との記念撮影はもちろん、最新のハイテクリールにも、はたまたカーディナルのようなオールドリールにもベストマッチするような見た目のクールさが必要だと思ったんです」

『PRV411SL-4』以外のモデルでは、黒いスレッドをベースに中央にはシルバーの3本線(アングラー/魚/自然をイメージ)が入り、エンドにはメタリックグリーンのトリムとなっているが、本機種には三多摩疑似餌連合のイメージカラーを1色ずつ使ったスレッドワーク。メインのダークグリーンは麗’sルアークラフトのルアーパッケージの色をイメージにした配色。エンド部分はSTAYGOLDのイメージカラーの一つであるゴールドを配色。中央には鱒mokuのパッケージカラーであるアイボリーを配置した。加えて、中央には4社のコラボを表現するために4本線のスレッドを入れている。

かくして、完成した『PRV411SL-4』だが、最後にコラボした三多摩擬似餌連合の各ビルダーに、このロッドについて一言語ってもらった。

「今のシンキングミノーにマッチした、今までになかったロッドだと思います」(中本)

「思ったよりも曲がりますよ。竿先でのアクション付もバッチリの1本になったと思います」(金)

「使い込むごとに馴染むロッドだと思います。4ピースなので源流釣行にもピッタリです」(辻)

「振り返ると大変なことも多かったですが、楽しかったですね。最後に、一言付け加えるならバルサ専用設計ではありますが、もちろんインジェクションにも使用可能です。ヘビーシンキングミノーを想定した硬めのロッドとは一線を画したアクションなので、フローティングミノーなどの軽量ミノーやスピナーを使う方々にもぜひおすすめしたいです」(田崎)

確かに、近年はグラスロッドが再び脚光を浴びるなど、新たなムーブメントが起きている。その意味ではこのロッドも、今のトラウトロッドに一石を投じるものになるかもしれない。

2024年1月末発売予定。

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製品


スペック)

全長=4ft11in(150㎝)

ライン=3~6lb(PE MAX0.8号)

ルアー=2~6g

標準自重=71g

仕舞寸法=40.5㎝

価格=¥42,000(税別)

製品紹介ページ

https://www.tiemco.co.jp/products/groups/view/3861

機種紹介動画

 

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