【最後のサクラマス遠征】
先日発売になった『サクラマス2024』。その中では、簡単にしか触れなかった5月後半に釣り上げた渓流ザクラ。ここでは、テレビのスピンオフではないが、その時の模様を詳しくお伝えしよう。
この時はシーズン最後のサクラマス遠征だった。GWからずっと連勤で働いた甲斐もあって、6日間の日程が取れた。久々の休みとあって、体は疲れ切っていたが、サクラマスに会いたい一心で車を北へと走らせた。途中のサービスエリアで飲んだリンゴジュースが、やけに美味しく感じたのを覚えている。
「今年はやりきる」と決めたサクラマスの釣り。GWの時点でキャッチできたのは13本。今回の遠征で仮に1日1本のペースで釣っても19本。目標の20本に到達させるには、相当の気合いとラッキーを掴まなくてはならない。ただそれだけに、挑戦のし甲斐があるとワクワクしていた。
天気予報を見ると、2日目の夜からの雨が降る予報だったが、「雨男パワーで釣れるといいな……」なんてのんきに構えていた。そう、別に隠していたわけではないが、僕はいわゆる『雨男』なのだ。僕の釣果は、別に釣りが上手いからというわけではなく、「雨が降るから魚が釣れるタイミングが来る」と自分では思っている。もちろん、降りすぎて釣りにならないことも多々あるのだが……。初日は、夜が明ける前に現場に到着。米代川本流に竿を出す。前回訪れたGWとは違って、水がだいぶ減って流れは貧弱になっていた。どうやってサクラマスに出会おうかと頭を悩ませる状況だったものの、幸運なことに僕が選択したエリアと釣り方は、そこまでハズレではなかったらしい。複数コンタクトの末、小型ながら2本のサクラマスをキャッチことができた。土曜日にもかかわらず、釣り場が空いていたのも僕の後押しになった。
【大雨で本流から渓流へ】
翌日は夜から雨の予報。雨が降るならプラスに働くであろうとのんきに構えていたものの、予報がみるみる変わって、かなりの大雨が降ることに。「翌日は釣りができないかもしれない」と思って、気合いを入れ直した
のだったが、結局この日はノーキャッチ。挙句の果てに、ヒットさせた特大の鱒をもバラしてしまうというオマケつき。ヒット後に見せた見事な3連続ジャンプ! 空中を舞った魚体はナナマルを確信するもので、引け腰になった僕は、曲げ込んでいたロッドの角度を緩めた上に、ラインブレイクやフックが伸びるのが怖くてドラグも緩めてしまった。その直後に再び大ジャンプ! 嫌な感触がしたと思った途端、フッと手元からテンションが抜けた。
「真っ向勝負しておけば……」
そう思ってへたり込んだのは言うまでもない。真っ向勝負してやられたなら、まだ気持ちの落としどころがあるかもしれないが、引け腰で後手になってバラしてしまうと、かなり凹むものだ。その日の夜は、車中で大きな雨音を聞きながら、何度も空中を舞うあの魚体を脳内で反芻していた。
翌3日目。車中泊中に大きな雨音で夜中に何度も目が覚め、雨が止んだ朝に起きて最初に思ったのは「今日は釣り出来ないかも」ということ。いざ川を見ると岸がなくなるほどの増水と、真っ茶色な水の色。
「これでは本流は釣りができまい…」
そう思って、支流などを色々回っていく。しかしどこも同じ状況で、昨晩からの雨の量の多さが伺えた。
「雨男パワーありすぎたな…」
半ばあきらめて、最後に望みをかけた支流にも向かったが、こちらも釣りになるような状況ではなかった。「おとなしく渓流釣りにシフトしよう」と思い、そこからさらに支流へと向かうことにした。
その地域の全体像を得ようと支流をいくつか回ってみたが、どこも増水ばかり。濁っている川と濁っていない川は様々で、とりあえず自分の中で濁っていない川をいくつかピックアップしてみて、一番大きなヤマメが釣れそうな川をチョイスしてみた。
【沈み岩の横を攻め直して】
一度も竿を握らず、車を走らせること11時。ただこの時の僕は、焦るどころかウキウキ状態。というのも、出たばかりのリールを購入してこの遠征に挑んでおり、それがちょうど渓流番手だったのだ。「新しいリールの調子はどうかな?」と能天気な反面、「もしかしたら、この雨でこの川に遡って来たサクラマスがいてもおかしくない」と淡い期待を抱き、ロッドは大物対応のパワーがあってちょっと長めの物をチョイスした。リーダーもいつもの5lbではなく、8lbを結んだ。
ルアーは川の規模に合わせて50㎜の『ナビア50FS』をセレクト、増水でアピール力が足りなかったら60㎜や70㎜に換えようと思っていた。ただ、フックのみ純正の12番から10番に替えて釣りをスタートした。
始めて3投目。コンディションのいいヤマメがヒット! 『ジジジッ』と鳴る新しいリールのドラグ音と、ドラグが出るほどのパワフルさが嬉しく感じ、早くも「いい釣りしたなぁ」なんてのんきに構えていた。
だが、そこから釣り上がっていくのが大変なことこの上ない。増水で水押しが強く、きわめて遡行しにくいのだ。アップで投げたルアーはあっという間に流され、ダウンでは水押しが強すぎて、ルアーがなかなか馴染まない。
結局、あまりキャストをしないまま大規模なポイントに到達。そこは対岸沿いに流芯が寄っており、手前は流れがよどんでいる。とくに釣り分けも気にせず、漫然とキャストをすると、小さなヤマメがルアーにじゃれついてきた。
「いけないいけない、気を抜きすぎた。増水時なのに小さいヤマメしか反応しないならアプローチがズレているかもしれないぞ。こういう時こそルアーのプレゼンテーションをしっかりしないと痛い目を見る」
そう思いながら、ポイントをしっかりと見て状況把握をし直す。すると、対岸沿いの流芯の中腹付近の水中に沈み石が入っているのが確認できた。
岩の頭なら尺ヤマメ。
岩の横ならサクラマスか中型ヤマメ。
岩の後ろなら大イワナ。
そう思ってアップクロスでルアーをアプローチしていく。岩の5メートル以上上流からルアーを流し込んでいき、中層とボトムの中間までルアーを沈めてから、岩の周りでターンさせる。
1投目。岩の頭では反応がない。
2投目。岩の横でも反応がない。
3投目。岩の後ろでも反応がない。
「見当違いだったかな?」と思いながらも、一等地と予想したスポットから反応がないのがイマイチ信じられない僕。そこでルアーが一番流れにシンクロした感触があった岩横へのアプローチを再び行った。
岩の頭を通り過ぎて、ルアーが岩の横付近に差し掛かったところで、先ほどと違って今度は連続トゥイッチを加えてみる。すると、トゥイッチ直後にルアーがターンするタイミングで『グググッ!』とゆっくりルアーが引き込まれた。
即座にアワセを入れると、水中で鈍くグネグネと体をよじらせる感覚が伝わっきた。「予想していた岩後ろではないけど、大きなイワナが来たぞ!」と思ったのも束の間、流芯から魚が抜けたところで水中でギランと光った。
「ん? この光り方ってサクラマスじゃない?」
そして手前の淀みに魚が入った途端に魚が猛ダッシュ! 魚を追いかけたい気持ちもあったのだが、股まで浸かって釣りをしていたので、僕には一切機動力はない。岸際の葦の方に魚が入っていった時には、イチかバチかでスプールを抑えて魚を止めたのだが、上手く剥がせた時にはどれほどホッとしたことか。強めのロッドを使って、リーダーを太く、フックを大きくしておいて良かったと思った瞬間だった。
緊張のファイトの最後は、サクラマスに不釣り合いな内径30㎝のネットに無理やり押し込んでチェックメイト。目の前に横たわったのは、うっすらと婚姻色が滲みだした渓流ザクラ。自身数年ぶりの渓流ザクラだっただけに喜びもひとしおだった。
「雨男でよかった……」
撮影後、流れに戻る魚の後ろ姿を見送った頃には、前日バラした特大の1本のことはすっかり忘れていたのだから、僕ものんきなものだ。
その後はスケベ心が出た僕は、同じようの条件の川を探して走り回ったが、良い条件の川はなく、結局夕マヅメには水系を変えて雄物川水系にいた。さすがにこの日は魚からのコンタクトはなく、1日で300㎞も走っていて「僕もバカだなぁ~」と思った。
【下道で東京へ帰る車中で思ったこと】
その後、遠征の残りの3日間でもう1本キャッチして、僕の2023年のサクラマスへの挑戦は終わった。
最終日の夕方、東京まで下道で帰る長い道中の車内。
「今年は本当にやりきったなー!」
ヘトヘトの身体とは裏腹に、終わってしまった名残と、最後までやりきった達成感で僕の心は満たされていた。
本当は、これで終わってしまったのが少し寂しくて、6月にあわよくばの下心と共に再び秋田へ赴いたのだが、猛烈な暑さの影響で
サクラマスはやめ、渓流に没頭した。
今シーズンは単純に数多くの魚と出会えただけでなく、ドラマチックな魚が多かった。今回の魚もそのドラマチックな出会いの中の一尾だった。
《使用タックル》
●ロッド:パスプルーバー PRV59SML-2 “Rapture Trigger”
●リール:23ヴァンキッシュC2000SHG
●ライン:PE0.6号
●リーダー:フロロ8lb
●ルアー:ナビア50FS(フックをトリプルフック10番に変更)
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